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米国の情報機器アクセシビリティに関する法律の実態調査報告書
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《 はじめに 》
本報告書は米国における情報機器、情報技術のアクセシビリティについて、関連する法規、現行関連法規に基づく政府機関の実施状況を追うとともに、民間のアクセシビリティ改善に向けての動きを調査したものである。調査に当たっては、インターネット上の関連サイトをできる限り網羅し、最新の動きを追った。また、全米のアクセシビリティ施策で最先端を行っているとされるカリフォルニア州サンノゼ市の担当責任者、スタンフォード大学のアルキメデス・プロジェクトを現地取材した。
米国での上記関連法規に関しては、社団法人・日本電子工業振興協会アクセシビリティ委員会1998年報告で概略的に記述されている。本報告では、同委員会1998年報告記載事項等に関し、その後の動きを把握することに重点をおいたが、米国のアクセシビリティを律する重要関連法規の全体像がコンパクトに分かるように、法規の概要についても再度、取りまとめた。
2000年は米国の障害者差別防止の基本法である「障害を持つアメリカ人法(ADA)」制定後、10周年を迎える。1999年には10月の「全国障害者雇用認知月間」に際し、クリントン大統領は「障害者の75%は雇用されていない」ことを強調、また、1999年10月19日には、障害者が職を得ても医療保険など社会保障の適用を除外されないようにした「労働優遇改善法(Work Incentives Improvement Act)」を下院が超党派で可決したことを賞賛する声明を発表した。2000年が法定任期の最終年であるクリントン大統領にとって、情報技術(IT)産業の勃興を契機とした、米国経済の長期の好況、それに立脚した歴史的な低失業率達成は「最大の成果」といえるものである。それだけに、同大統領は2000年の一般教書などで「デジタル・デバイド」に言及し、ITの普及を低所得者層、マイノリティ、地方にまで浸透させ、ITによる社会全体の底上げへ「デジタル・デバイド」を解決する必要を訴えている。
同大統領は1998年8月に職業訓練パートナーシップ法など職業訓練関連法を統合した「総労働力投資法1998年」に署名し、同法は成立した。総労働力投資法は雇用を促進し、所得水準を上げ、ひいては持続的成長を可能とする労働力の質の向上、労働生産性向上、福祉依存の低減を目的にしている。IT時代に適合する労働力の再編が狙いである。この点は総労働力投資法508条を見る上で押さえておくべきだろう。
米国における情報機器、情報技術のアクセシビリティ改善は「デジタル・デバイド」という言葉自体は使われなかったとはいえ、グローバルな課題となりつつある「デジタル・デバイド」に対し、技術面で先駆者的な役割を果たしてきている、ともいえる。東南アジア諸国連合(ASEAN)は1999年7月に国連の支援を得て、「インターネット・アクセシビリティと障害者」に関するセミナーをバンコクで開いている。「デジタル・デバイド」が論議されるにつれ、アクセシビリティの問題にも途上国の関心が示されてきたことの証左である。
米国の情報機器、情報技術のアクセシビリティに関する関連法規の中で、最も注目されるのは、1998年8月7日にクリントン大統領の署名により成立した「総労働力投資法1998年(Work Force Investment Act)」の508条施行の行方である。508条は障害を持つ連邦職員が健常者と同様に、仕事遂行のためにITを使えるようにすることを目的としている。この508条は本報告書第1部の第1章で述べているように、リハビリテーション法の条項から、総労働力投資法に発展的に吸収され、総労働力投資法1998年の下では連邦政府機関は調達時に508条の順守を義務付けられている。
調達時に順守すべき具体的な技術標準は2000年2月7日までに連邦政府の米国建築物・交通障壁改善委員会(通称、アクセス委員会)が連邦各省庁、機関に提出することになっているが、発表が遅れている。
アクセス委員会の具体的な技術標準策定に当たっては、委員会の諮問機関である情報技術アクセス諮問委員会(EITAAC)が1999年5月に最終報告書をアクセス委員会に提出した。EITAACは全米盲人協会など障害者団体、マイクロソフト、IBMなど民間大手ベンダー、大学、小企業ながら障害者向けの機器・技術(AT:Assistive Technology=支援技術)を開発・提供している企業など27組織の代表が委員となり、最終報告をまとめた。アクセス委員会は、この報告をもとに技術標準を公表すると見られるが、この最終報告の内容は第1部第2章の冒頭に紹介している。
アクセス委員会の技術標準は2000年8月7日から実施義務が生じる。連邦政府のIT調達は巨額である。例えば、ハイテク産業の集積地域として、シリコンバレーを抜いたとされる周辺の含む首都ワシントン地域からの製品、サービスに係る政府調達額は1998年、史上最高の250億ドルに上った。その調達額の半分はデータ処理など情報通信技術関連だった(ワシントン・ポスト紙1999年4月1日付)。総労働力投資法508条は連邦機関だけに適用されるとなっているが、「障害者への技術関連支援法1988年(Tech法)」を更に進めたした「支援技術法1998年(ATA)」の関係で、州にもその影響が及ぶ。1998年11月に施行されたATA法下では、各州は障害者のための支援技術(AT)の普及に対し、連邦政府の補助を受けることができるが、主管官庁の連邦教育省は1999年6月に補助金交付の条件として508条順守を必要とする旨の指針を明らかにしている。この点は第2部の州レベルの状況で述べている。上記を考慮すると、今後民間への波及も十分考えられる。
総労働力投資法の508条では、入札にもれた企業が、落札者の機器、技術についてのアクセシビリティを問い、納入業者選定のやり直しを求める訴訟を起こすことが認められた。
508条関連ではないが、全米盲人協会はアメリカン・オンライン(AOL)をウエッブ(Web)のアクセシビリティに関しADA法違反で1999年11月に提訴した。このことは第一部のADA法関連で触れている。総労働力投資法508条が実施に移されることは、アクセシビリティが訴訟社会である米国の「市民権」を得た形になり、今後、訴訟面での動きも見逃せなくなってくる。
障害者にとって、ADA法制定後、情報通信技術面での実効性のある法律とされてきた連邦通信法1996年の225条の施行規則は1999年7月に発表された。その概略は同じく第1部の2章で述べている。
米国の障害者数は4千万人台とも5千万人を超えているともいわれる。障害者の統計、現状については、第2部の第5章でまとめているが、何らかの障害を持つ人はおよそ5人に1人の割合である。日本と違い、色覚などの障害者も入っている。障害者の高齢化が進み、増加する高齢者が何らかの障害を持つ状況がある。
インテリクエスト社の調査によると、1996年末の米国のインターネット・ユーザー(16歳以上)は約4,700万人であった。ジョージア工科大学の1996年調査によると、米国のインターネット・ユーザーの8%は障害者であった。違う調査とはいえ、両調査の結果から推定すると、1996年末段階で、370万人程度の障害者が米国でインターネットを利用していたことになる。別の調査(メディアマーク社)によると、1999年春段階での18歳以上のインターネット・ユーザーは8,000万人を超えた。障害を持つ人々のインターネット普及が健常者のそれと同じ伸びを示したかどうかは確認できないが、普及が進んだことは推測される。
その際、問題となっているWebのアクセシビリティに関しては、第1部の3章でワールドワイドウエッブ・コンソーシアム(W3C)の専門組織であるWAIの動向を詳述した。WAIはWebページ作成、ブラウザー、オーサリングツールの3分野でそれぞれの製作者向けガイドラインを策定しており、Webのコンテンツについての作業グループが1999年5月に業界標準を発表するなどW3Cは業界標準化団体として、アクセシビリティに熱心に取り組んでいることは周知の通りである。
W3Cのスポンサーとしては、全米科学財団(NSF)、連邦教育省の全国障害・リハビリテーション研究所(NIDRR)、欧州委員会の障害者・高齢者関連組織、カナダ政府などが名を連ね、日本の慶応大学がセンターのひとつになるなど大学の関連研究組織がガイドライン作りに貢献している。民間大手ベンダーでもマイクロソフト、IBM、NCR等がスポンサーになっている。前述のEITAACでは1998年度の諮問委員構成は24組織代表からなっていたが、1999年度にはWebABLE! Solutionsなどとともに、WAI代表が諮問委員入りした。このことは、障害者のインターネット利用が高まる中で、WAIが標準化団体としての存在感を増した結果といえよう。
アクセス委員会の技術標準、WAIのガイドラインなどへの対応状況に関しては、第2部で連邦政府機関はもとより、主要州での取り組みを概括した。サンノゼ市については、障害者アクセス調整官のシンシア・ワッデル女史に対する聞き取り調査結果をまとめている。同女史はこの分野における全米のリーダーの一人とされている人物である。興味深い取材リポートになっている。ワッデル女史は2000年6月に東京で開かれるインターネット協 会主催の国際会議に講演者として来日を予定しているという。
大学でのアクセシビリティに関する活動状況については、従来から主導的な役割を担ってきているウイスコンシン大学トレース研究開発センター、スタンフォード大学のアルキメデス・プロジェクト、カリフォルニア大コミュニティーカレッジ等を対象とした。スタンフォード大学のプロジェクトについては、現地取材であったこともあり、詳細に報告した。参考になれば幸いである。大学の活動に関しては、第3部でもワシントン大学、カナダのトロント大学の動きを紹介している。
アクセシビリティ改善では民間の非営利団体(NPO)の貢献はW3C、WAIに見られるように大きい。いまや、アクセシビリティに限らず、政策策定・実施に際し、政府部門と市民社会、非政府組織(NGO)、NPOとの対話、協力は世界の潮流になってきている。米国の2000年大統領選挙では、リベラル、ワシントンといった言葉は禁句である。米国民間で広がるワシントン嫌いを意識してのこととされている。ちなみに、アクセシビリティ改善で推進役の1省となっている連邦教育省に対しては、共和党は伝統的に「不要論」を展開しているほどだ。総労働力投資法の508条が基本的に連邦政府機関だけが対象としているのも、この辺の事情を反映してのことであろう。第2部の3章では、アクセシビリティに関する米国の主要なNPOの活動についてまとめている。
ベンダーの対応状況については、マイクロソフト、IBM、アップル社を取り上げた。マイクロソフトはアクセシビリティ対応と同時に、近年、高齢者への対応に力を入れている。しかし、アクセシビリティへのこれまでの取り組み姿勢に批判もある。この点についても、第2部、第3部で触れた。支援技術の一角を担うベンダーは小企業がほとんどだが、第3部でその動向紹介を若干、行うと同時に抱える問題点を探った。
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