米国の情報機器アクセシビリティに関する法律の実態調査報告書


3.カリフォルニア州コミュニティカレッジ

3.1 経緯

米国の大学では、衛星放送やインターネットを利用した遠隔教育が急速に発展している。オンライン・コースを取れば、自宅や職場に居ながらにして大学の授業を受けることができるので、社会人にとってメリットが大きい。また、複数の大学が共同して、バーチャル大学を構成している場合には、学生はキャンパスを移動することなく、複数の大学のカリキュラムを組合せた教育を受けることができる。このように遠隔教育は、いろいろな利点があるので、更に発展することが予想されるが、障害者のアクセシビリティの面からは、新たなバリアとなることが懸念される。そこで、総数410万人の学生が学んでいるカリフォルニア州のコミュニティカレッジは、共同でワーキング・グループを設置し、1998年の初めから「遠隔教育の障害者アクセス・ガイドライン」を検討してきた。そして、1999年8月に最終のガイドラインを"Distance Education Access Guidelines for Students with Disabilities "として発表している。

3.2 アクセシビリティの基本条件

 カリフォルニア州コミュニティカレッジの「遠隔教育の障害者アクセス・ガイドライン」では、以下の8項目を、遠隔教育を実施する場合の基本条件としている。

@ いつでも、どこでも学習できるという遠隔教育の特長を、外部の助け(例えば、手話翻訳者)なしに、できるだけ実現すること。アシスタンスは、最後の手段である。

A クローズド・キャプション(CC)、ナレーションなどは、予め組込むことを原則とする。組込みが困難な「スクリーン読み上げ」機能などの支援技術に関しては、業界標準のインターフェースを提供すること。

B 大学から押し付けるのではなく、学生の希望する方式で情報を提供すること。各学生の障害の状況により、方式は、手話、CC、ナレーション、点字、音声、拡大文字、電子化テキストなど、種々がありうる。また、伝送するコンテンツによって、適当な通信手段を大学側で確保すること(情報量が多い場合、通常の電話線では不充分である。)

C 大学外のWebページを教育に使用する場合は、大学から働きかけて、それをアクセス可能にすること。アクセスに問題があるときは、代替手段によって同じ情報を提供すること。

D 新しい教材、カリキュラムは、当初からアクセス可能であること。

E 従来から使用している教材、カリキュラムの場合は、今後6年以内に全てアクセス可能なように改善すること。

F 当初からアクセス可能にしなかったため、後からの改善のコストが膨大となっても、コスト高を理由にADA(障害を持つアメリカ人法)の除外ルールは適用されない。

G 特殊な障害に対して、アクセスを可能にすることが極めて困難な場合は、やむをえず代替手段によって情報を提供することも例外として見とめられる。


3.3 ガイドラインの概要

 各情報伝達手段に対して、課題、対策、およびその解説が記述されている。

(1) 印刷物

・ 課題:重度に視覚が不自由な人、低視力の学生は、印刷物を読めない。また、極度の学習障害をもつ学生は、印刷物を効率的に読めないこともある。
・ 対策:印刷物を別方式(点字、拡大文字、録音テープ、デジタル録音ファイル、電子化テキスト、など)で提供する。この場合、可能な限り、学生が希望する方式にて情報を提供すること。
・ 解説抜粋:1999年時点の点字印刷装置(ハードとソフト)の価格は、約5千ドル。シングル・スペースのテキスト1ページは、点字で2ページに変換され、外注した場合のコストは、点字1ページ当たり約1ドルである。

(2) 音声

・ 課題:聾者、難聴者は音声による会話が聞こえない。また、言語障害者は、会話に音声で対応することができない。
・ 対策:テキスト電話(TTY)の回線を張るか、リレー電話サービス(TRS)を利用する。また、インターネット上に専用のチャット・ルームを開設する。他の手段が不可能な場合は、最後の手段として、学生の側に、翻訳者(音声→手話、音声→キーボード入力など)を配置する。
・ 解説抜粋:TTY(TDDともいう)は、通常の電話回線を使って文字情報を伝達するもので、キーボード入力された文字は、相手側のディスプレイに表示される。1対1の通信であり、キーボードの入力速度によって通信速度が決まるので、学生から先生への質問などに用途は限られる。TRSは、電話回線の途中にいるオペレータが、先生の音声をキーボード入力し、文字情報として学生へ伝える。学生が入力した文字情報は、このオペレータがそれを読み上げ、音声で先生に伝える。現在、TRSの年中無休の無料(トールフリー)サービスが存在するので、先生と学生の対話には活用できるが、これを使って授業のディスカッションに参加するのは、応答速度の面で困難である。インターネット上の専用のチャット・ルームは、いろいろと活用できる可能性が高い。

(3) ビデオ(オンライン、またはテープ)

・ 課題:聾者、難聴者は会話が聞こえない。また、重度に視覚が不自由な人、低視力の人は、教材を見ることができない。
・ 対策:リアルタイムでキャプション(クローズド、またはオープン)を入れるか、小さなウインドウの手話画面を重ねて放送する。学生からの通信手段として、TTY回線で接続するか、TRSサービスを利用する。インターネット上の専用のチャット・ルームによって、リアルタイムで会話することもできる。最後の手段として、学生の側に、翻訳者を配置する。
教材として使用される印刷物は、重度に視覚が不自由な人、低視力の学生に対しては別の方式で提供する。ナレーション入りのビデオも必要に応じて提供する。
・ 解説抜粋:オンライン・ビデオにリアルタイムのキャプションを挿入する装置の価格は、約1万ドルである。外注した場合のコストは、1時間当たり、75〜100ドルである。

(4) Web

・ 課題:重度に視覚が不自由な人は、グラフィック画像、複雑なフォーマットのテキスト、ジャバ・アプレット、ビデオ・クリップにアクセスできない。聾者、難聴者は、音声のコンテンツを聞くことができない。
・ 対策:W3C(World Wide Web Consortium)のガイドライン に従うこと。
・ 解説抜粋:アドビ社のPDFフォーマットで作成された資料は、スクリーン読上げシステムや、点字表示出力装置を用いて読むことが困難な場合がある。従って、Webサイトで資料がPDFフォーマットの場合は、同一内容をテキスト、またはHTMLフォーマットでも提供すること。但し、これはテキスト情報の場合であり、画像、グラフ、地図については、別途代替手段を考える必要がある。

(5) CD-ROM、DVD

・ 課題:重度に視覚が不自由な人は、グラフィック画像、複雑なフォーマットのテキスト、ジャバ・アプレット、ビデオ・クリップにアクセスできない。聾者、難聴者は、音声で表現されるコンテンツを聞くことができない。肢体不自由な学生は、タッチ・スクリーンによる操作器具を使えない場合がある。強度の学習障害をもつ学生によっては、支援技術なしで多量のテキスト情報を処理することができない。
・ 対策:ウイスコンシン大学のトレース研究開発センターが作成した、「アプリケーション・ソフトウエアをアクセス可能にするためのガイドライン 」に従うこと。また、W3Cが作成したマルチメディアのアクセス・ガイドラインを参照すること。


4.その他の大学

4.1 カリフォルニア州立大学ノースリッジ校(CSUN)

 CSUNに所属する障害者センター(Center of Disabilities) は、アクセシビリティに関するカンファレンスやワークショップ、および支援技術の利用についてのセミナーを主催している。この中でも特に、毎年開催されるCSUNカンファレンス"技術と障害者"には、全米の産学官の関係者が多数参加し、アクセシビリティに関する最新の技術情報が発表されている。1999年は、3月中旬に第14回のカンファレンスが、ロスアンジェルス市で開催された。その発表資料はWebページ 上に公開されている。次回は、2000年3月20日から一週間、同じロスアンジェルス市で開催されることになっている。


4.2 Galludet大学

 Galludet大学のTAP(Technology Assessment Program)グループは、NIDRRからの資金により、聾者、難聴者が直面している通信バリアを除去するための研究開発を行っている。最近の主なプロジェクトとしては、1995年から4年間にわたって、トレース研究開発センター、およびWID(World Institute of Disability)と共同で「ユニバーサル通信アクセス」の研究開発が実施された。このプロジェクトにおいては、多くの成果が得られているが、そのひとつとして、最近のデジタル携帯電話の発展が、新たな通信バリアを生じている問題を解決するために、デジタル携帯電話と支援技術をどのように組合せるか、また、デジタル携帯電話と従来のTTYの標準インターフェースなどを決定している。

 また1998年からは、5年計画の新しいプロジェクトとして、レキシントン聾学校などと共同で、聴覚改善の支援技術が研究されている。この中では、マルチチャネル方式の聴覚支援技術や、音声認識技術の適用開発などが予定されている。


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