米国の情報機器アクセシビリティに関する法律の実態調査報告書


   第2章 大学の活動

1.ウイスコンシン大学のトレース研究開発センター

1.1 概要

 ウイスコンシン(Wisconsin-Madison)大学のトレース研究開発センターは、コンピュータ関連の市販品のアクセシビリティを、いわゆるユニバーサル設計技術によって向上させるための研究を行っている。本センターは、教育省が推進しているNIDRR(National Institute on Disability and Rehabilitation Research)事業のIT(Information Technology)技術分野担当のRERC(Rehabilitation Engineering Research Center)として位置付けられており、研究開発費の多くはNIDRRが負担している。なお、RERCは、全米で15箇所設置されており、各々担当分野が異なる。

 トレースセンターは、コンピュータ、インターネット(WWW)、情報処理端末(キオスクなど)、通信機器のアクセシビリティに関する基礎研究から応用研究までの広い範囲にわたって全米の中心的研究開発機関であり、既に、多くの成果がコンピュータメーカに技術トランスファーされ、実際に商品に組込まれている。次項で紹介する「アプリケーション・ソフトウエアをアクセス可能にするためのガイドライン」は、プログラマーの憲法的なマニュアルとして広く活用されている。Webに関しては、本センターが発表したHTMLに関するガイドラインが広く利用されてきたが、これを拡大する形で最近のW3C/WAIのガイドラインがまとめられている。情報処理端末のタッチスクリーンに対しては、本センターが提案した"EZ Access"という仕様が実用化されている。また、これを発展させたURCC(Universal Remote Console Communication)プロトコルが、赤外線を使ったリモート制御デバイス(リモコン)の業界標準となっている。このプロトコルは多くの支援技術機器・装置に採用されているので、今後、キオスク、ATM、電話、電子レンジなどに広く普及すれば、障害者は支援技術の機器・装置をリモコンとして使用することにより、これらの電子機器にアクセスすることが容易になると期待できる。また、JAVA言語に関しても、SUN社、IBM社と共同で研究開発を推進している。


1.2 ソフトウエア作成のガイドラインの概要

 障害者がアクセスできて、使用できるアプリケーション・ソフトウエアを作成するためには、設計者は次の3項目の基本的考え方をもつ必要がある。

(1) できるだけ多数の人が、特殊な支援技術を使わずに、アクセス可能になるように設計すること。
(2) OS組込み、およびサードパーティ提供のアクセス機能と適合するように設計すること。
(3) アプリケーション・ソフトウエアだけでなく、関連する資料、トレーニング、サポートシステムについてもアクセス可能にすること。

 アプリケーション・ソフトウエアの本来の目的を損なわず、アクセス可能にするためには、障害者の状況に応じて以下の事項を考慮する必要がある。本来の目的を損なわないとは、例えば教材の場合には学術性を低下させない、ということである。

1)肢体不自由

@ レスポンス時間をあまり短く(5〜8秒以下に)設定しない。できれば調整可能とする。
A ツールバー、メニュー、ダイアログ・ボックスのキーボード・アクセスを可能にする。
B OS組込みのアクセス機能(StickyKeys、SlowKeysなど)と両立させる。

2)聴覚障害

@ 音声出力情報を、全てビジュアル情報としても表示する。
A スクリーンを見ていなくても、ビジュアルの「キュー」信号を見落とすことがないようにする。
B 騒音環境、あるいはスピーカがオフの状態で使用するモードを設ける。
C OS組込みの"ShowSounds"機能を活用し、音声をキャプション表示できるようにする。
D カスタマーサポート窓口にTTYを使ってコンタクトできるようにする。


3)色盲

@ 色の違いで情報を伝えるカラーコーディングを使用する場合は、別の手段でも同じ情報を出力する。例えば、カラーコーディングに使用する色の濃淡を変化させて、同じ情報を伝える。
A モノクロ・スクリーンでも情報が伝わるようにする。


4)弱視

@ ユーザーがフォント、色、カーソルを見易いように調整可能にすること。
A テキストと背景のコントラストを大きくすること。
B パターン画像の上にテキストを重ねて表示しないこと。
C プログラム内のスクリーンと対話のレイアウトに一貫性をもたせ、予測が可能にすること。
D ツールをメニュー・バーからアクセスできるようにすること。
E 罫線を引くときは、システムで推奨している線幅にすること。
F その他、OS組込みの高コントラスト機能をサポートすること、など。


5)重度に視覚が不自由な人

@ 重度に視覚が不自由な人が一般的に利用するスクリーン・リーダーとインターフェースがとれるようにすること。そのためには、スクリーン上のテキスト記述、カーソルやポインターの表示には、システム・ツールをマニュアルに従って正しく使用すること。ツールバー、パレット、メニュは別々のアイテムとして描画すること、などが必要である。
A グラフィック画像にテキストデータが重なっているときは、スクリーン・リーダーが、それらを分離して認識できるようにすること。それを実現するためには、いろいろなことに注意する必要がある。詳細は省略。
B 独自のハイライトや、フォーカス技術を使う場合にも、システム・カーソルが常に同じ位置にあるようにすること。
C スクリーンと対話のレイアウトは、一貫性をもたせ、予測可能にすること。
D できるだけ単一コラムのテキストにすること。
E スクリーンに関係する制御信号には、直接表示されないものも含めて全て、その機能を表す名前をつけること。そうすればスクリーン・リーダーが、必要に応じそれらを読上げることができる。
F ツール、メニュ、ダイアログ・ボックスは全て、キーボードによるアクセスを可能にすること。
G ドキュメント、オンライン・ヘルプは、テキストだけを読んでも理解できるようにする。
H 動画、アニメーションの情報には、同期したナレーションをつけること。


6)言語障害、識字障害など

@ スクリーン上のメッセージや警報は、了解入力がされるまで消去しない。
A テキストの文章は明快、且つ平易に表現すること。
B スクリーンのレイアウトは、単純で一貫性があること。


7)全障害に関わる共通事項

@ 顧客サポート関係者全員に、アクセシビリティの課題を周知徹底させること。
A アクセシビリティの課題別に、顧客サポートの専門要員を養成すること。
B 顧客サポートで見つかったアクセシビリティの問題点は、直ちにソフトウエア設計部門に伝達し、対策を検討するような体制を確立すること。


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