米国の情報機器アクセシビリティに関する法律の実態調査報告書


2.州政府レベルの対応状況

2.1 コネチカット州

 コネチカット州は、州機関Webページのユニバーサル・アクセスを実現するための施策をとっており、その最新版が1999年5月18日にWeb公開 されている。この施策では、アクセス可能なWebページの設計指針として、ウィスコンシン大学トレース研究開発センターの「HTMLページ設計ガイドライン」 に準拠するように規定されている。この施策を公示するWebページには、Web設計時に考慮すべき事項が、チェックリスト(1997年1月改訂)として示されている。チェックリストは、ユニバーサル設計、テキスト・ベース設計、グラフィックス、音声・ビデオの各項目毎に、設計時に留意すべきことが箇条書きの31ケ条に簡略にまとめられている。例えば、ユニバーサル設計の項目では、アイコン、グラフィックス、写真を不必要に多用しないこと、各種ブラウザーに対応していることをテスト段階でチェックすること、グラフィックを含むページには、同一内容をテキストだけで表現するページを併設することなど、11ヶ条が述べられている。またこのWebページには、設計にあたっての参考情報、およびアクセシビリティ関連のリンク先が参考資料として添付されている。


2.2 ニューヨーク州

ニューヨーク州は、州のWebサイトをユニバーサル・アクセス可能にするための技術施策(Technology Policy 99‐3) を1999年9月30日に制定している。この施策は、州機関のWebページを全てW3C Guidelineに準拠するように改善し、障害者のアクセスを可能にするよう規定している。全てのWebのコンテンツは、GuidelineのLevel Aの条件が必要である。このため州の各機関は、責任者を任命し、W3C Guidelineの最新バージョンが発行される都度、Web作成の関係者に周知徹底するとともに、Guidelineに適合しないWebページは1年以内に修正することが義務づけられている。また、各機関は、アクセシビリティに関する苦情受付窓口を設置し、それをWebページに明記する必要がある。


2.3 カリフォルニア州

カリフォルニア州は、州関係機関のWebページのアクセシビリティを推進するための委員会を設置し、多くの障害者ユーザーがアクセスできるWebページの設計指針(ハウツウ)と、参考となる情報源へのリンクをこの委員会のWebページ に公開している。
公開されている情報は以下のものである。

・ Webアクセス課題についての概説情報
・ HTMLによるWebページをアクセス可能にするための参考情報
・ HTML以外のフォーマットを使った場合の参考情報

但し、これらの情報は1996年10月24日以降更新されていないので、情報が古いだけでなく、リンク先のURLが既に存在しないものも含まれている。

 カリフォルニア州では、学校で使用される教材を身体障害者にもアクセス可能にするための州法(AB: Assembly Bill)が3本、1999年2月に州議会に上程された 。最初のAB 422は、カリフォルニアの州立大学、およびコミュニティカレッジで使用される教材の出版社に、その教材の電子化ファイルを障害者に提供することを義務づける法律である。電子化ファイルがあれば、適当な支援技術を用いて、その内容を点字や音声で出力することが可能となる。AB 422は、8月に州議会を通過し、9月15日には州法として施行されている。2本目のAB 609は、小中学校で使用されている教材の出版社に、その教材の電子化ファイルを、州へ無償で提供することを義務づける法律であるが、これは未だ州議会を通過していない。3本目のAB 395は、教材の出版社に点字変換ソフト、および音声合成ソフトに適合したフォーマットの電子化ファイルを提供することを義務づけるものである。AB 395は、9月に州議会を通過しているが、その後10月9日に州知事に拒否されたため、州法とはなっていない。


2.4 テキサス州

テキサス州の教育庁は、CD-ROMやインターネットを利用した電子教科書の実現性を検討し、その報告書 を1999年2月に発表した。この報告書では、障害を持つ学生が電子教科書にアクセスできるための要件を述べるとともに、今後の課題として以下の勧告をしている。
・ アクセス可能な電子教科書の作成ガイドラインを検討する委員会を設置すること。
・ アクセス可能な電子教科書を州の資金で実際に開発すること。開発するものは、障害者が支援技術なしに利用できるCD-ROMベースの電子教科書1冊と、同じく支援技術不用のインターネット・ベースの電子教科書1冊である。
・ 2003年以降、州の教育委員会が採用するCD-ROMベースの電子教科書は、本報告書に記述されているアクセシビィティの基本要件を全て満たすこと。
・ 2003年以降、州の教育委員会が採用するインターネット・ベースの電子教科書は、W3Cのガイドラインに準拠すること。
・ 州の公立学校の教材と、大学入試は、障害をもった学生にアクセス可能にすることを義務づけること。


2.5 各州の508条への対応

 1998年8月7日に成立した総労働力法508条に規定されているアクセシビリティの必要条件は、連邦政府と、連邦政府から補助金を得ている各州に適用される。また、1998年11月13日に成立した、支援技術法1998年によって、教育省は、障害を持つ個人のための支援技術に対して、各州に資金を提供しているが、その条件として、508条のアクセシビリティ要件を満たすことが必要との指針を、1999年6月30日に出している。従って、支援技術に対する連邦からの補助金を得ている各州は、連邦政府機関と同様に、早急にアクセシビリティ対策を講じる必要がある。しかし、現在、情報機器システムのアクセシビリティを評価する技術は標準化されていないので、各州が独自の方式で評価すれば、州間にばらつきが生じることになる。そこで、この点に問題認識をもつ州が1999年7月9日に会合に持ち、今後の進め方を打合せた。この会議には、連邦政府機関におけるアクセシビリティの評価を担当する総務庁のCITAも参加した。そして、現在、ニューヨーク州、メイン州、ミズーリ州は、アクセシビリティの評価・認証の共同実施を検討している。


3.市レベルの対応状況

3.1 カリフォルニア州サンノゼ市

 サンノゼ市は、障害者のWebアクセスを可能とする設計標準を1996年6月に制定している。サンノゼ市のホームページはこの標準に準拠して作成されている。この標準は、技術の発展に伴うデジタル・バリアを解消するよう、またWeb編集ツールにアクセスするためのツール類を組込むように改善されている。

 サンノゼ市のWeb設計標準は以下の7項目を基本的な必要条件として規定している。
@ Webを閲覧する人に対するインストラクションのページを設けること。この中には、アクセシビリティに問題があると感じた人が、その問題点を連絡できるEmail宛先のハイパーリンクを付けること。

A テキスト・ブラウザーをサポートすること。

B スクリーン・リーダーが認知できるように、画像イメージには"Alt"タグを付けること。

C 写真には、説明文"D"へのハイパーリンクをつけること。

D 音声、ビデオのクリップには"CC"ハイパーリンクにてキャプションをつけること。

E オンライン申請用紙には代替手段を設けること。例えば、Emailアドレス、通常の電話番号、TTY(テキスト電話)の電話番号など。

F アクセスの障害になるような形式で資料を提示しないこと。PDF、表、新聞、フレームなどの形態、およびソフトをダウンロードする必要がある、などは、アクセスの障害となる危険性がある。PDF形式で提示する場合は、HTML、またはASCII形式での掲示も同時に行うこと。

サンノゼ市は、Webアクセスに関して、全米で最も優れているとして、総務庁CITAから表彰されている。


3.2 サンノゼ市出張報告

(1)訪問先

・ 面談者:障害者アクセス調整官 Cynthia Waddell女史(法学博士)
・ 日時:1月4日午前10時−11時30分
・ 場所:サンノゼ市役所460号室

(2) Waddell女史の経歴

・ サンタクララ大学にて法学博士号取得。
・ 市のADA準拠担当官として、サンノゼ市のWebページのアクセシビリティを他の州、市に先駆けて達成。この業績により、インターネット関連の有名女性25人の一人と見なされている。
・ 全米のいろいろな所で講演を行っている。特に1999年5月25、26日に商務省が主催したデジタル・エコノミーに関するセミナーで行った講演 、「障害者のアクセスにおける、デジタル境界線の拡大:The Growing Digital Divide in Access for People with Disabilities」は、アクセシビリティ関連の参考文献として有名である。

(3)質疑応答

1) 経緯

・ サンノゼ市のWebアクセスに関する取組みは、市の盲人の局長から市議会関連のWebページが読めないという苦情が出たことによって開始された。
・ Waddell女史は、市のADA準拠担当官として「インターネット・ホームページ・チーム」のリーダーとなり、Web作成に関する標準を作成するとともに、Web管理者の再教育を実施して、1996年6月に市のWebページのアクセシビリティを達成した。
・ サンノゼ市の取組みは、全米の州、市の中で最善のやり方(ベスト・プラクティス)と評価されている。
・ 上記とは別の動きとして、サンノゼ州立大学の盲人の学生から、教材として使用されているインターネットのWebページに一人でアクセスできないのは困るという苦情が、1995年に市民権利局に出されたことを契機として、公立の学校でのアクセシビリティの取組みが開始された。
・ Web管理者へアクセシビリティの教育を行うハイテク・センターは、公立学校が先に確立していたので、そちらの方へ依頼してサンノゼ市のWeb管理者の再教育を実施した。
・ 教育関係とは、その他いろいろ協力しながら進めている。また、W3C、企業とも協力している。
・ サンノゼ市のベスト・プラクティスに続けと、カリフォルニア州の市連合、および全米の市連合がいろいろ活動をしているので、近い将来に全米のアクセシビリティが改善されると思われる。

2) 教育・訓練の重要性

・ 障害者に対して初等教育段階から支援技術とコンピュータの使い方を習熟させることが、極めて重要である。Waddell女史は、重度の聴覚障害をもっているが、学生時代に最新の支援技術機器を、州が設立した支援技術センターから無償で貸与してもらえたので、勉学に非常に助かったそうである。
・ また、全米に設置された障害者のための職業訓練施設でもコンピュータ利用技術を習得することができる。
・ 障害者が就職する場合も、その仕事を遂行できる能力をもっていることが前提になるので、ネットワーク技術が進展した現在、ほとんどの仕事においてコンピュータを使いこなせることが必要条件である。

3) コスト負担の問題

・ 企業が障害者を雇用する場合、その業務遂行に必要な支援技術は企業側で負担することになっているが、そのコストは一人あたり500ドル以下であり、また、税金控除の対象になるのでほとんど問題にならない。
・ 障害者を雇用した場合、業務を継続できる環境を維持することが法律で義務付けられているが、実際には、例えばイントラ・ネットがアクセス不能になって、職を失う障害者は多い。その理由としては、アクセス可能なシステムをどのようにしたら維持できるかの知識がない"無知な"管理者が多いことが第一にあげられる。後からアクセス可能に変更するには多大のコストがかかるので、障害者の業務遂行が不可能な状態が続き、障害者が辞めざるを得なくなるのが実態である。過去にPCのOSがDOSからWindowsに変化したとき、支援技術が使えなくなったが、現在急速に発展しているイントラネットの導入によってアクセスが不可能になっているケースが数多く報告されている。
・ 建物のバリアフリー・アクセスについては、新築、改築の申請時にチェックすることで、バリアフリーを維持改善する方法が確立しているが、コンピュータ・システムに関しても、発展を阻害することなく、アクセシビリティを維持する方法を早期に確立する必要がある。システム改造時に全ての機能のアクセシビリティを維持することを義務づけてはどうかと、提案している人もいるが、そのためには、機能のアクセシビリティをどのようにして評価するかのチェックリストが必要である。
・ サンノゼ市のWebページ、および業務システムのアクセシビリティを維持するための予算獲得は容易ではない。そこでWaddell女史は、常に市議会議員へ長期的視野から維持費の必要性を説得しているとのことである。

4) 508条の影響

・ 従来の法律からの重要な変更点は、アクセス不可能な機器システムを調達した担当官の個人責任を明確にしたこと、および入札に外れた会社がアクセシビリティを理由に納入業者の選定にクレームをつけることができる、という2点である。後者によって、アクセス可能な機器システムを研究開発するのにかかったコストを回収する道が開けた。
・ 508条の適用は、連邦政府と、連邦から補助金を得ている州政府が対象になっているが、「障害者の支援技術法」、および教育関係において全部の州が連邦から補助金を得ているので、全米の州に508条は適用されることになる。
・ 508条を適用するには、アクセシビリティをどのようにして審査するかの基準が必要である。CITAは、現在、アクセシビリティ・ベンチマーキング手法の確立に重点的に取り組んでいる。
・ また、CITAは、州が共同して508条対応のアクセシビリティ標準を確立する活動を強力にサポートしている。

5) その他の情報

・ 米国では高齢者のITアクセシビリティはほとんど話題になっていないとのことである。しかし、Waddell女史は、高齢者のITアクセシビリティに関するオーストラリアの調査報告書を最近読んでおり、日本のノーマリゼイションの件を紹介したところ、非常に興味を示した。
・ 高齢者のコンピュータ利用に関しては、サンノゼ市の公民館でインターネットの学習講座を最近はじめたところ、予想外に高齢者の受講希望者が殺到し、順番待ちになって市役所の職員が全員びっくりしているとのことである。
・ Waddell女史は、6月に東京で開催されるインターネット協会の国際会議においてアクセシビリティの講演を依頼されている。既に資料の作成は開始しているが、出張旅費の補助がなければ、テレビ会議システムを使用したオンライン講演になる可能性もある。


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