米国の情報機器アクセシビリティに関する法律の実態調査報告書


  第2部 アクセシビリティに関する条項の実施・対応状況

   第1章  政府(連邦、各州)の状況

1.連邦政府省庁の活動状況

1.1 合衆国建築物および交通障壁改善委員会(アクセス委員会)

   (Architectural and Transportation Barriers Compliance Board)
 アクセス委員会は「リハビリテーション法1973年502条」に基づいて設立され,活動目的は「障害を持つ人が社会で生活し,働けることを保証する」ことである。米国において障害者(この中には高齢者も含む)の権利に関する諸法律を施行するためのガイドラインおよび標準の作成は、この委員会に集約されている。

(1) 任務

@ 「障害を持つアメリカ人法(ADA)」と「建築物障壁法(ABA)」で提起された課題に対する最小限のガイドライン作成と必要事項の開発。

A 「通信法」が対象とする通信機器と顧客構内設備のためのアクセシビリティ・ガイドラインの作成。

B 総労働力投資法の508条に関連する電子・情報技術のアクセシビリティ標準の作成。

C 上記のガイドラインおよび標準に関する技術的サポート。

D ABA法の施行。


(2)組織

 行政組織体に属する25人のメンバーと、ABA法の技術的サポートと適合性の調査を行い、委員会の政策を実行する36名のスタッフからなる。

(3)施行責任の分担

@ アクセス委員会はABA法の施行に直接責任を持っている。
A 一方、ADA法の一般的施行責任は司法省にあり,交通関係は「連邦トランジット局」、雇用関係は「雇用の平等機会委員会」が行い、電話リレー設備に関しては、「連邦通信委員会(FCC)」が責任を持つ。
B 通信法の施行責任はFCCが持つ。


1.2 障害に関する国家諮問委員会(NCD:National Council on Disability)

(1)概要

 NCDは、独立した連邦機関であり、全米5,400万人の障害を持つ人々に関係する事項について、大統領と連邦議会に対して勧告を行う。NCDの15人のメンバーは、大統領が指名し、これを連邦議会が承認して決まる。NCDの目的は、障害を持つ全ての人々に対して、その障害の程度に関わらず、機会均等を保証するための政策、施策、慣行、手続きを推進することである。そして、障害を持つ各人の経済的な自立と他に依存しない生活が可能になり、社会の全ての面で障害者が健常者と一体化することを目指している。

 NCDの役割は多岐にわたるが、その概要を以下に紹介する。
@ 連邦政府に関係する障害者関連の政策、施策、慣行、手続き、法律、規則などが、障害を持っている人々を助けるという点で効果を発揮しているかどうかを常時レビューして評価する。特に、ADA法1990年の実施状況とその効果についての情報収集を行う。

A 新しく提案されている障害者関係の政策(連邦政府関連だけでなく、州、市、および民間を含む)を検討して評価する。

B 上記の評価結果にもとづき、大統領、連邦議会、関係する連邦政府各機関の長に対して、障害者の機会均等、経済的自立、他に依存しない生活、社会との一体化などを改善する方策についての勧告を行う。この中には、NIDRRにおける新規研究テーマの提案も含まれる。

C 年次報告書「全国障害者政策の現状」を作成し、大統領および連邦議会へ提出する。


(2)マルチメディアのアクセシビリティに関する報告書

 NCD傘下の技術監視タスクフォースは1998年3月13日に,「知覚障害を持つ人々のマルチメディア技術へのアクセス」 と題された報告書を発表した。この報告書は、その後の各方面におけるアクセシビリティ検討の重要なべースとなっているので、その概要を以下に紹介する。

 1)目的

 障害者の多くを占める視覚と聴覚に障害を持つ人が、コンピュータによるマルチメディア技術を利用する時に遭遇する問題点をあげ、政策決定者と産業当局者に、それらの障壁を下げ,あるいは除去するための解決策を勧告したものである。なお、ここでいうマルチメディアとは、従来の文書データに加えて、音声,ビデオ,グラフィックスなど、複数のコンピュータ・データを用いるもので,双方向化できる可能性があり,音声と視覚要素の双方を含む技術と定義されている。

 2)概要

@ マルチメディアの利用と重要性
教育および職場におけるマルチメディアの利用とその重要性を述べ,障害者のマルチメディアへのアクセスの必要性を述べている。

A マルチメディアにアクセスする際の障壁
金銭負担面での障壁,視覚障害者に対する障壁,聴覚障害者に対する障壁,聴覚と視覚二重障害者に対する障壁について問題提起をしている。

B マルチメディア製品をアクセス可能にするための解決策を記述。

C マルチメディアへのアクセスを改善するための自主的努力を紹介。

D 将来の活動として、テキサス州教育機関タスクフォースの経験とアクセス委員会EITACCの実績に基づき,教育省に「マルチメディアアクセスに関する国立助言タスクフォース」を結成することを提言している。

E 法律・規則に関しては、2000年8月から強制力をもつようになる508条の効力に期待を示し,それに加えて、情報ハイウエイにおける障害者の障壁を防ぐためにユニバーサルデザインの工業標準化とFCCの権限強化,ビデオテープや計算機メディアに対し、クローズド・キャプション(字幕)や説明を付加できるようにするための著作権の除外規定,さらに税金控除など財政的なインセンティブを設けること、などを勧告している。


 3)トピックス:クローズド・キャプション(CC)について

 本報告書には、アクセシビリティを達成することの難しさについて、CCの例が述べられている。音声をテキストで画面に同時表示するCCの機能をもったテレビ番組は、1980年3月に始まっている。その後、CCを再生するデコーダ回路を全てのテレビ受信機につけることが1993年に成立した法律で義務付けられ、テレビ番組も、通信法1996年によって、CCを付加する事が必要となった。そして、1997年8月には、連邦通信委員会(FCC)がCCに関する規則を公布した。この結果、テレビ放送のCCが一般化し、聴覚障害を持つ人々のテレビに対するアクセシビリティが格段に向上した。しかし、ビデオについては、CCの普及は遅れている。

 少し古いデータであるが、1995年の時点で、一般ビデオの80%、教育用ビデオの95%にはCCは付いていない。その後も、改善はしているが、ビデオのCC普及率は依然として低い。アナログビデオのCCは、以下に述べるように普及するための条件が整っているにも拘わらず、それでも普及しないのが、アクセシビリティ問題の難しい所と、本報告書では述べている。

@ アナログビデオのCCに関する標準は1997年に確立している。
A アナログビデオにCCを付ける費用に対して、連邦政府の補助金が出る。
B CC付加を受託する大手6社、中小100社のサービス事業者が存在する。
C CC付加を自社で実行する時に必要なツールは、10社のメーカから購入できる。



1.3 大統領府の障害者の雇用に関する特別委員会

 本委員会の目的は、障害者の就職を促進するための官、民の活動を連携、調整することである。このため、企業幹部、労働組合、リハビリテーション機関、支援団体、および障害者本人とその家族に対して、情報、教育訓練、技術支援を提供する。この一環として、1999年11月には、知覚障害を持つ人に対する職業訓練と、就職促進活動を行っている非営利組織4団体に、総額70,000ドルの補助金が支給された。この補助金は、職業訓練費用の一部と、障害者への給与の加算に遣われる。

 また、この委員会は障害者の雇用に関する無料相談窓口JAN(Job Accommodation Network)を設置している。JANのコンサルタントは、以下のような相談を受け付ける。

@ 雇用者に対するサービス
・ 障害を持つ有資格者の新規雇用、雇用継続、昇進
・ 給与や保険の減額
・ アクセシビリティに関する問題解決
・ 障害者の職場に準備する便宜手段の選択余地、合理的な解決策など

A リハビリテーション関係者へのサービス
・ 入居者を受け入れるために必要な支援技術
・ 地方において、職場環境の評価を依頼できる組織・機関など
・ リハビリテーション機器の製作、改造ができる施設

B 障害者へのサービス
・ 職場で準備される便宜手段に関する情報
・ 他の組織、支援グループ、政府機関、就職斡旋機関などの情報


備考:労働優遇改善法について
 1999年10月19日に連邦議会下院を通過した「労働優遇改善法」は、障害者の就職を促進する効果が大きいと期待されている。現在の法律では、就職して4年を経過するとメディケア(医療保険)の受給資格を失うが、障害者社会保険(SSDI:Social Security Disability Insurance)の対象者に対しては、この期間を10年に延長しようというものである。また、この法律には、障害者のリハビリテーション、訓練の対象者数を、今後10年間で4倍増の55万人にすることも含まれている。従来、メディケアを続けるために仕事を止める人が数多くいたので、本法律が成立すれば、今後10年で障害者の就職数が35,000人増加すると予想されている。


1.4 国立障害リハビリテーション研究所(NIDRR)

 NIDRR(National Institute on Disability and Rehabilitation Research)は、教育省の「特別教育計画とリハビリテーションサービス事務所」(OSERS:Office of Special Education and Rehabilitative Services)の傘下にあり,全年齢層の障害者の完全な融合,社会的な差別撤廃,雇用および自立を最大化するための研究と,関連する活動を包括的に遂行している。NIDRRは傘下の「リハビリテーションエンジニアリング研究センター」(RERC:Rehabilitation Engineering Research Center)、「リハビリテーション研究および訓練センタ」(RRTC:Rehabilitation Research and Training Center)、およびウイスコンシン大学トレース研究開発センターなどにおける研究開発と技術移転の推進,情報技術関連企業との共同研究コンソーシアム,さらに障害者,研究者、企業代表者の全てが先端技術や情報革新について学べるデモンストレーションセンターの維持運営資金などを提供している。2000年のNIDRR予算(要求ベース)は、9,000万ドルである。これは1999年の実績に対して、約1,000万ドル(12.3%)の増加である。

 NIDRRは、RERCにおける今後5年間の研究計画を1999年4月に発表した。それによれば、総額4,200万ドルを投入し、以下に示すような研究開発を行う。

@ 言語障害者を助ける新技術、
A 新しい情報技術を活用して、障害者の就職などの機会を増やす方策、
B 聴覚過敏を改善する技術、
C 義手・義足の設計を支援するコンピュータ・ベースのシステム、
D 支援技術の商業生産を活発化する方策、
E 地方や遠隔地にいる障害者のリハビリテーションを助ける先端的な通信技術および情報技術、など。



1.5 総務庁(GSA: General Service Administration)のCITA

 「情報技術便宜提供センター」(CITA:Center for Information Technology Accommodation)は、1984年に総務庁GSAの省内に設置された。CITAは、連邦政府機関における情報技術関連のアクセシビリティを向上させるため、産学官のパートナーとのネットワークを広げながら,「アクセシビリティ技術委員会」、「連邦WWWコンソーシアム」などの活動支援,いろいろな障害に対する支援技術のコンサルテーションとデモンストレーション,ユニバーサルアクセスやアクセシビリティに関して発生した問題の関係先への連絡および調整、連邦政府におけるガイドラインや方針策定のための助力などのサービスを行っている。また「アクセシビリティのための情報リソース管理ハンドブック 」を発行し,その最新版は1998年9月に改定されたものである。

 CITAにおいて現在推進中の代表的なプロジェクトを以下に紹介する。


@ 情報技術アクセシビリティの評価・認証
 本プロジェクトは、情報技術商品のアクセシビリティ達成の度合いを評価する技術を確立し、508条に適合した性能を有していると認められる場合には、「アクセシビリティ合格」の証明を出すことを予定している。また、評価したアクセシビリティのベンチマーク結果は、オンライン・データベースとして提供される予定である。このベンチマーク評価試験は、製造企業の自主検定ではなく、中立の立場の研究所における実際のテストが計画されている。

A アクセシビリティ実現の先駆け実施
 本プロジェクトは、連邦政府機関から8部門を選び、専門家チームが協力して、1999年10月までに508条の必要条件を他部門の先駆けとして達成することを目指している。


1.6 国防総省(Department of Defense)のCAP

(1)CAP(Computer/Electronic Accommodations Program)の概要

 国防総省は、全事務職員の2%に障害者を充当するという目標を掲げ、障害を持つ人にとって機会均等な職場環境を実現するため、1990年10月に「コンピュータ・電子機器便宜手段プログラム」CAPを開始した。
CAPの活動は、以下の3項目である。

@ 障害をもつ職員が、コンピュータおよび通信システムにアクセスできるようにするための便宜手段(支援技術など)を購入すること。
A 障害をもつ職員が、2日以上の研修に参加するとき、手話翻訳者や補助者をつけるための資金提供。
B アクセシビリティに問題が生じた場合、ソフトウエア、ハードウエア、その他の支援技術に関する専門知識の提供。

CAPは、国防総省関連部門に対し、設立以来総数14,000件を超える便宜手段をCAPの費用負担、すなわち、障害者を雇用する部門の費用負担無しで提供している。提供先は、国防総省の部局の他、病院、診療所、訓練センター、職員の子弟の学校、および職員が在宅勤務する場合の自宅のオフィスが含まれる。


(2) 関連プログラム

 CAPが関係している障害者関係のプログラムを以下に紹介する。
@ 障害を持つ学生のリクルート・プログラムWRP
 WRP(Workforce Recruitment Program)の目的は、まず第1に、連邦政府の他の省庁と協力し、障害を持つ大学生を夏期の研修生として受け入れて実務経験を得させることである。このWRPに参加する大学生が必要な支援技術は、CAPが提供する。第2の目的は、専門家が全米の大学に出張して、毎年約1,000人の障害を持つ大学生にインタビューを行い、各学生の能力を一覧に整理したデータベースを作成することである。このデータベースは、連邦政府機関がアクセスするだけでなく、1996年からは民間企業の利用も認められている。

A 在宅勤務プログラムFlexiplace
 大統領府は1996年5月に、連邦政府職員の在宅勤務者を、その時点の3,000人レベルから、3年後の1999には60,000人まで増加させるいう目標を設定した。CAPは、何らかの障害があるために在宅勤務を希望する国防総省職員が必要とするコンピュータ(ハードウエアとソフトウエア)、電話、FAX装置、各種の支援技術を提供する。なお、障害には、けがなど一時的なものを含む。

B 技術評価センターCAPTEC
 CAPは、ペンタゴン内に公開の技術評価センターCAPTEC(CAP Technology Evaluation Center)を開設している。
CAPTECには、聴力障害者,弱視,全盲,移動障害者,識字障害者のそれぞれのニーズに適した最新の支援技術を組込んだ5台のワークステーションが設置されており、障害者がこれらを実際に試用することによって、どの程度までアクセス可能になるかを評価できる。


1.7 議会図書館

(1)障害者向けの図書サービス(NLS)

 点字や録音図書を再生機器と一緒に障害を持つ人へ無償で提供するNLS(National Library Service for the Blind and Physically Handicapped)は、1931年の立法化によって開始された。当初は、盲人の成人だけが対象であったが、1952年には子供、1966年には視覚以外の障害を持つ人も対象に含められている。
 議会図書館は、現在25万冊(タイトル)の本、雑誌を省略無しで点字化、あるいは録音化しており、その複製を含めると全部で2,200万冊の蔵書を、全米に設立された州立、市立の約140図書館と協力しながら、障害者へ送料無料の郵便で貸し出しを行っている。録音図書の再生機器は、このNLSサービスの提供を希望する限り、無期限に無償貸与を受けることができる。身体的障害の状況によって必要な場合には、リモート操作機器、ヘッドホーンなど、オプション機器も付加して貸与される。
 本サービスを受けることができる有資格者は、視覚障害者が200万人、その他の身体的障害者が100万人と推定されているが、1998年の利用者は、トータル769,000人であった。録音図書の利用者は平均して年に39冊の本や雑誌を、点字図書の利用者は、1年間に平均15冊を借りている。
 NLSの1999年度の予算は、約49百万ドルであるが、これに郵便局が負担している送料を加算した実質的な支出総額は120百万ドルに達する。なお、NLSには多くの無給ボランティアが参加して、点字翻訳、録音録音の他、再生装置の修理などの活動を行っている。

(2)Web点字サービス(Web-Braille)

 議会図書館は、1999年8月24日よりNLSの一部として、視覚障害者を対象とするインターネット上のWeb点字サービスを開始した。米国内の在住者と国外に居住する米国市民は、割り当てられているユーザーIDとパスワードを入力することによって、議会図書館のWeb点字サービスのホームページにアクセスし、希望する点字図書を指定してダウンロードする。ダウンロードした結果は、NLSから予め貸与を受けている電子的にピンアレイが上下して点字が構成される更新可能な点字表示装置、あるいは点字印刷機に出力される。サービス開始時の点字図書の蔵書は2,700冊であるが、毎月40冊ずつ増やす計画である。Web点字サービスは、最初の段階では本だけが対象であるが、雑誌類も近日中に提供される予定である。また、NLSは次世代のデジタル録音図書DTB(Digital Talking Book)の世界標準化活動(第1部第3章2.参照)に参加しており、今後のWeb点字サービスの対象としてDTBも予定されている。


1.8 その他

 連邦政府におけるその他のアクセシビリティ活動としては、農業省のTARGET(Technology Accessible Resources Gives Employment Today Center)、退役軍人省におけるATP(Adaptive Training Program)がある。農業省のTARGETは、キャリアアップを目指す障害者に対して、電子・情報技術をよりアクセス可能にするための支援活動を行っている。具体的には、農業関係の情報を必要としている全ての障害者に対して、電子的な情報へのアクセスを可能にするための設備や技術に関して、各障害者のニーズ検討、デモンストレーション、評価、購入の補助などを行う。また、退役軍人省におけるATPは、その名の示す通り障害者に対する訓練プログラムである。

 また、上記以外に障害者に関する連邦政府機関の活動として以下のようなものがある。

・ 成人障害者の就職に関する大統領府の活動チーム(PTFEAD:Presidential Task Force on the Employment of Adults with Disabilities)
・ ユニバーサルアクセス・ワーキンググループ(FISAC:Universal Access Working Group)
・ 障害者向け研究に関する中立の委員会(ICDR:Interagency Committee on Disability Research)
・ 退役軍人省におけるリハビリテーション研究開発サービス(Rehabilitation Research and Development Service)


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