米国の情報機器アクセシビリティに関する法律の実態調査報告書

  第1部 アクセシビリティに関する法律,政策および業界標準

   第1章 米国連邦法


 米国において、障害を持つ人を対象とするアクセシビリティ関連の法規は、数多くのものが制定されているが、電子協アクセシビリティ委員会報告書(1998年3月)にその全体像が述べられているので、ここではその中で特に重要な「障害を持つアメリカ人法1990年(ADA)」、「連邦通信法1996年255条」、「総労働力投資法1998年508条」、「支援技術法1998年(ATA)」を取り上げ、その概要と適用状況について述べる。その他の法律・条項については、その要点のみを参考として付記する。


1.障害を持つアメリカ人法1990年
 (ADA : Americans with Disabilities Act of 1990)


 ADA法は、市民権法1964年の後に制定された市民権に関する最も包括的な法律である。この法律は、障害者の差別防止を目的としたリハビリテーション法1973年を拡大する形で作成されている。

1.1 法律の概要

(1)目的と対象

 障害者の市民権確保を意図するもので,民間における雇用,州や地方政府の提供するサービス,公共の便宜のために供される場所,交通及び通信サービスにおいて障害者を差別することを禁止している。このように、本ADA法は、連邦政府が調達、または使用しているものには及ばない。

(2)雇用

 15人以上の従業員を雇用する民間,州と地方政府,雇用斡旋機関,労働組織および労働委員会に適用され,「過度な困難」がない限り、障害者が平等に業務ができるように適切な便宜を準備しなければならない。

(3)公共サービス、公共の便宜

 交通機関を含み州や地方政府が提供する公共サービスにおいて,障害者に対する差別を禁止する。
 公共のための場所において民間運営で提供している物品,サービス,設備などの便宜が、障害者を差別するのを禁止する。

(4)通信

 電話会社は遅くとも1993年7月26日までに24時間ベースでの州間及び州内の障害者に対する「通信リレーサービス」を可能にしなければならない。「通信リレーサービス」とは,有線または無線で声による通信を行っている健常者と同様な機能を聴力障害者あるいは言語障害者が実行でき,聴力障害者用の通信装置の有無によらず,健常者との通信を可能とするサービスである。具体的事項については、後述の連邦通信法に規定されている。


1.2 ADA法に関連する動き

(1)ガイドラインの制定

 この法律の施行のために、アクセシビリティ・ガイドラインADDAG(Americans with Disabilities Accessibility Guideline)が、ADDAGレビュー諮問委員会の最終報告として「アメリカ合衆国建築物および交通障壁改善委員会(アクセス委員会)」に1996年9月に提出されている。

 本ガイドラインは、施設,設備,建物、およびその構成要素への障害者のアクセシビリティを確保するための技術的要求事項を示している。各要求事項の適用範囲は、連邦機関がADA法の下で公布した各規則の中に述べられている。
要求事項は、建築,内装などに関するものが主体であるが,電話,警報装置,聴覚補助システムやATMなどについても第7章に規定されている。

(2)Webページへのアクセシビリティに関する司法省の裁定

 本法に関連し,Webページを視覚障害者にどの程度アクセス可能にすべきかについて,司法省は1996年9月9日に次ぎのような見解を公表している。
 ADA法のTitle IIおよびIIIは、公共,および民間機関(包括実体:Covered Entity)が、従来の印刷メディア,音声メディアだけでなく、インターネットのようなコンピュータ化されているメディアなども含めて、障害者に有効なコミュニケーション手段を用意することを要求している。このため,物品,サービス,設備などの便宜提供にインターネットを使用する公共,および民間機関は、障害を持つ人とのコミュニケーションを確保するため、適切なアクセス補助手段を提供することが必要である。補助手段としては、音声出力、点字出力、拡大文字表示、字幕表示、その他、障害を持つ人がアクセスできる方法をいう。

(3)Webアクセシビリティに関する訴訟

 上記1996年の司法省の見解によれば、最近数多く設置されているWeb上のオンライン・ショップは、ADA法の定める公共の便宜(public accommodation)に対するアクセス基準を守ることが、法規的に義務付けられている。この点について、司法当局および関係機関に多くの苦情が寄せられてきたが、実際の提訴にいたるケースは約3年間(1999年11月初めまで)なかった。

 全米盲人協会(NFB:National Federation of the Blind)は、1999年11月4日にインターネット・プロバイダー最大手のアメリカン・オンライン(AOL)社を連邦裁判所へADA法違反の初めてのケースとして提訴した。提訴の理由は、AOLのサイトは他のプロバイダーと異なり、テキスト・データを音声や点字に変換するソフトウエアと互換性がないことをあげている。これは一般大衆向けの便宜は全ての人に平等なアクセスが可能なこと、というADA法の規定に違反している。なお、連邦政府は、既に「サービス」も便宜に含まれると判断している。
 AOLによれば、会社としてインターネットを障害者にアクセス可能にすることに努力しており、2000年に導入予定のソフトでは、重度に視覚が不自由な人が使いやすい機能をいれる。この中には、電話でEmailを受信する機能も含まれる、と釈明している。これに対し全米盲人協会は、AOLの現システムを変更してアクセスを可能にする技術は現在すでに存在しているので、裁判所がシステムの改善命令を直ちに出すことを要請している。

 インターネットにADA法を適用することの是非をめぐり、2000年2月9日に米国議会下院の憲法小委員会で参考意見聴取が行われた。下院議員Charles Kennedy氏宛てに提出されている意見書によれば、インターネットは米国経済成長の大きな要因であるので、これにADA Title IIIのアクセス標準を適用して、インターネットの発展を阻害するのは好ましくない。また、Webサイトは、一般大衆のための「便宜」には含まれない、と主張している。公聴会においては、Webサイトをアクセス可能にする技術は、未だ確立していないので、ADA法が適用されれば、Webページからグラフィックスやマルチメディア画像を除去する以外に実際的な対策は無い。今の時点でADA法がインターネットに適用されれば、提訴を避けるためにオンラインをやめるサイトが多数にのぼる可能性がある、などの反対意見が述べられた。そして、米国インターネット協会(U.S. Internet Industry Association)の理事は、インターネットのアクセシビリティ対策がもっと容易にできるようになるまで、ADA法の適用を延期すべきだと強く主張した。これらの意見に対し、視覚障害者団体の全米盲人協会(NFB)、米国盲人協会(AFB:American Foundation of the Blind)、米国盲人委員会(ACB:American Council of the Blind)は、W3C(World Wide Web Consortium)および連邦政府の関係機関と共同して強力な証人を立て、Webページをアクセス可能にする技術は既に存在しており、マルチメディアを含むページをアクセス可能に変更することは容易に実行できることなどを説明し、インターネットへのADA法適用に対する反対論が間違っている、と証言した。


2.連邦通信法1996年(Telecommunications Act 1996) 255条

 この255条は、ADA法1990年以来、障害を持つ人にとって、最も実効のある法律といわれている。電話などを使った通信は、米国民の生活にとって必要不可欠の要素となっている。本法律は、通信機器および通信サービスを、障害を持つ人にもアクセス可能にすることによって、就職、独立した生活、緊急時の連絡、教育における機会均等を目指している。

2.1 法律の概要

(1)内容

 通信機器あるいは顧客構内設備の製造業者は,「容易に達成可能(readily achievable)」であれば,障害者がアクセスし,利用できるように機器を設計,開発,製作しなければならない。また,通信サービスプロバイダは,「容易に達成可能」ならば,そのサービスを障害者がアクセスし、利用できるようにしなければならない。
 もし、これらが「容易に達成可能」でない場合は,製造業者またはプロバイダは,障害者がアクセスするために通常使う既存の周辺機器,またはそのために特製された顧客構内設備と接続できるような機器またはサービスを、「容易に達成可能」ならば確保しなければならない。

(2)用語の定義


@ 容易に達成可能:ADA法の定義に整合し、「過度な困難(much difficulty)」がない、あるいは「多大の費用(much expense)」をかけずに、容易に完成、且つ実行できること。
A 通信機器:通信サービスを提供する業者(キャリア)で使用される機器のことで、これらの機器に統合されているソフトウェアを含む。
B 通信サービス:設備の有無にかかわらず、公衆に直接、通信手段を提供すること。
C 顧客構内設備:通信サービス業者(キャリア)でない企業などの構内設備に採用されている通信機器のこと。
D 周辺装置:障害を持つ人がアクセスできるように、通信機器または顧客構内機器に接続して、データを翻訳したり、フォーマットを変換するなどの機能を持つ装置。


2.2 通信法アクセシビリティガイドライン

(1)経緯

 1996年の通信法制定後,アクセス委員会は連邦通信委員会(FCC:Federal Communications Commission)と連携して,通信アクセス諮問委員会(TAAC:Telecommunication Access Advisory Committee)が1997年1月に答申した最終諮問をベースに、255条に規定した通信機器と顧客構内機器のアクセシビリティ,ユーザビリティ及びコンパチビリティを実現するためのガイドラインを1998年3月に発表した。その後、FCCは、Inclusive Technologies社に委託して、市場にある通信機器、およびサービスのアクセシビリティの実態調査と、一般消費者の意見収集を行った。それらのデータを参考に、FCCは255条と通信法1934年の251条(a)(2)を施行するための規則と方針を1999年7月14日に公布した。この施行規則については、第2章で説明する。

(2)ガイドライン(1998年3月)の概要

 本ガイドラインは、目的,範囲,定義,一般的要求事項,アクセシビリティおよびユーザビリティへの要求事項,周辺機器と大手ユーザーが構内に設置している機器に対する互換性の要求事項について規定しており、下記の項目から構成されている。
@ サブパートA:目的,範囲,定義
A サブパートB:一般要求事項
B サブパートC:アクセシビリティ及びユーザビリティのための要求事項
C サブパートD:周辺機器及び大手ユーザーの構内設置機器に対する互換性のための要求事項


2.3 通信法の関連条項

(1)251条:相互接続

@ 通信業者(キャリア)は、アクセシビリティ要求規則に適合しない特性,機能あるいは能力のネットワークを設置してはならない。
A 通信業者が、直接あるいは間接的に他業者の設備及び機器に接続する場合においても,255条あるいは256条に従って作成されたガイドライン及び標準に適合しない通信ネットワークを設置してはならない。

(2)713条(305条の変更):ビデオ番組・アクセシビリティ

@ 番組提供業者または番組所有者は、原則として全ての番組に字幕(CC:Closed Caption)を挿入することが義務づけられている。
注:第2部第1章で述べるNCD(National Council on Disability)の発表資料「知覚障害を持つ人々のマルチメディア技術へのアクセス(1998年3月13日)」を参照。


3.総労働力投資法1998年 508条
 (Work Force Investment Act of 1998)


 508条は、もともと1986年10月にリハビリテーション法内に制定された。その1年後には、教育省と総務庁(GSA:General Service Administration)が共同でガイドラインを発表し、電子機器の入力、出力、およびドキュメントに関し、アクセシビリティの機能仕様と、それを達成する管理責任を明確化した。その後、GSAは1991年1月に、連邦情報資源管理システムFIRMR(Federal Information Resources Management System)の公報(Bulletin)C-8の中で、508条の改訂したガイドラインを公表した。しかし、リハビリテーション法508条は、違反した場合の罰則など、強制力に欠けていたため、殆どの省庁で、これらのガイドラインは守られなかったのが実態である。
 その一方で、コンピュータなど電子機器および情報技術の利用が、連邦政府の職場で拡大している。連邦政府で働く障害をもつ職員は、業務遂行のために各種の支援電子機器を利用しているが、新しく導入されたコンピュータとのインターフェースが考慮されていないため、突然、業務システムへのアクセスが不可能になるケースが増えている。また、連邦政府の情報公開が、インターネットなど電子的なものに移行しているが、障害を持つ一般市民のアクセシビリティに問題がある場合も発生している。そこで、1998年8月に、実際に効力を持つように508条の規定内容が改定され,総労働力投資法(Work Force Investment Act)に移された。


(C)Copyright JEITA,2001