01−情−4
電子透かし技術に関する調査報告書



日本経済の難関を打破し持続性のある経済成長を実現するためには,産業構造の改革が必須であり,その中核はディジタル化電子情報通信技術の活用にあることはいうまでもない。その第1段階では,インターネットの商用利用の第1段階としての企業間(BtoB)電子商取引に続いて,第2段階では消費者向けビジネス(BtoC)における利用が主力となることが期待されている。マルチメディアコンテンツ(静止画,動画,オーディオ)のネット上販売はその典型的形態である。現実に,ディジタル化された音楽の配信を始め,さまざまなコンテンツビジネスが開始されている。
しかし,競業者あるいは消費者によって不正な複製が行われる危惧のあることが,コンテンツビジネスの本格的な拡大の最大の障壁となる。特に,米国で爆発的な広がりを見せたNapsterやGnutellaはその典型であり,コンテンツビジネスにとって大きな脅威となっている。2001年に入って陰りの出始めた米国経済をもう一度成長軌道に戻し世界同時不況の発生を避けるためにも,この脅威を速やかに取り除く必要がある。
コンテンツビジネスの健全な発展と拡大のためには,暗号や電子透かし等の技術を活用して情報セキュリティ強度の高い著作権処理システムを実現すること,法制度を強化して不正行為者が厳しく罰せられる環境を整備すること,さらに,高度情報化時代における情報の取り扱いに関する倫理を明確化して広く教育・啓発を進めることなどが必要である。 この報告では,その中でも中心的な役割を占める電子透かし技術について調査研究を行った結果をとりまとめ,今後とるべき方策について提言を行う。
電子透かし技術とは,人間の知覚(視覚・聴覚)の特性を利用し,静止画,動画像,オーディオ等のディジタルコンテンツに対して,コンテンツ自体とは別の情報を,人間に知覚できないように埋め込む技術をいう。
人が知覚できないという点と秘密にされた情報を知ることができないという点では,暗号技術に類似性もある。しかし,暗号の場合,コンテンツが暗号化されていることは人に認識されるがコンテンツ自体が秘密になっているのに対して,電子透かしの場合は,コンテンツ自体は秘密ではなく,それと別の情報が埋め込まれていることが認識できないという点が本質的に異なっている。
また,コンテンツに対してこれと別の情報を添付しその改ざんができないようにするという点では,ディジタル署名(電子署名)技術に類似性もある。しかし,ディジタル署名の場合は,それをコンテンツに添付すれば長さ(ビット数)が増加し,受信者が署名部分だけを削除することが可能であるのに対し,電子透かしの場合は,長さが増加せず,透かしだけを削除することが不可能である点で相違する。
その一方,電子透かし技術は暗号やディジタル署名とも組み合わせて使われることが多いので,注意する必要がある。例えば,ディジタル署名の内容を電子透かしで埋め込んだり,電子透かしを埋め込んだコンテンツを暗号化するなどである。その意味で,電子透かし技術は,暗号やディジタル署名等の情報セキュリティ技術を補完する技術であり,代替するものではない。

電子透かし技術は,次の点で特徴的である。

(1) コンテンツの種類および書く込むべき情報の種類と量に応じて設計条件が著しく異なるので,多様な技術が必要となる。
(2) 利用形態に応じて変化する要求条件に対応するため,アルゴリズムの中に複数の可変要素(パラメータ)を組み込んでおく場合が多い。
(3) 数学的理論によってセキュリティ強度を保証することが暗号に比較して困難であるため,実質的に強度を確保するための手段としてアルゴリズムを非公開とする場合が多い。
(4) 複製制御用のように電子透かしの機能を装置に組み込む必要のある場合など,用途によってはそのアルゴリズムを標準化することが必要な場合もある。一方,ネット上で不正複製物を検出する場合などのように,コンテンツ提供者の方針と要求条件によって多様な電子透かし技術を用いる場合は独自の非公開アルゴリズムを用いる場合もある。
(5) 特許出願が急激に増加しており,今後多数の電子透かし特許が登録されると予想される。

これらの事情を考慮した上で電子透かし技術を活用した著作権処理システムの実用化を促進するためには,多様な電子透かしの中から目的に応じて選択ができるようにする必要がある。そのためには,アルゴリズムが公開されているか非公開であるかを問わず,利用形態に応じた要求条件に応じて,電子透かし技術を評価するための手法を確立することが必要である。
この委員会では,この視点に立ち,静止画を対象とする電子透かし評価基準案を平成10年度に作成して公開した。平成11年度はこれを用いた評価実験を行ってその実用性を確認するとともに一部の見直しを行った。本年度は,これまでの成果に基づき,次の3点を主眼として調査研究を行った。

(1) 前年度までに作成した電子透かしの評価基準案の見直しを行い,確定版として公開する。
(2) 電子透かし評価基準に基づき,適用形態に応じて各々の電子透かし技術を評価するための支援システムを開発する。
(3) 電子透かし技術の著作権管理以外への応用例を調査し,技術の広範な適用を促進するための提言を行う。

本委員会は本年度で終了するが,開発した電子技術評価支援システム(JEWELS)はオープンソースのフリーソフトとして電子情報技術産業協会から広く公開し,その利用を促進すると共に,その機能拡張等を目的とする情報交換の場(電子掲示板等)を設置することが必要である。JEWELS DOWNLOADページへ
電子透かし技術は,著作権保護の対象となるコンテンツの権利表示・不正利用の抑制・監視等の著作権管理への応用に加え,写真等の改ざん検知・真正性確認等の原本性確認への応用,各種説明情報やCM等の附属情報付加への応用,複製制御・フィルタリング等の機器制御への応用,商品の販売促進情報のリンク等への応用など,幅広い利用が可能である。これらの応用例を含め典型的なビジネスモデルならびにこれに適合する電子透かしの利用方法に関する教育・啓発活動の進め方,非公開アルゴリズムを含む電子透かしアルゴリズムの登録制度の可能性などを検討し,この調査研究の成果の普及を図ることが必要と考えられる。



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